病院や施設の料理が不味い理由その2

老人ホームであるとか病院や学校も含めた施設で食事を提供する場合に、一番重要視される事は何だかご存知でしょうか。「味」でしょうか?それとも「値段」でしょうか?

答えは「安全」です。大量の食事をひと時に提供する必要がある施設では何よりも食中毒を起こさない事が最優先されます。

一般の方はご存じないと思いますが、普通の街場のレストランなどの厨房と病院や老人ホーム等の施設の厨房は全くつくりが違います。

施設の厨房は「清浄区域」と「非清浄区域」とに別れていまして、清浄区域では仕込み作業は一切行いません。

例えば鰺の南蛮漬けを作るとします。一般のお店であれば、鰺を揚げて野菜を切って南蛮漬けのタレに漬けるといった作業を同じ厨房内で行います。

一方施設の場合は、鰺の下処理と野菜を切る作業は非清浄区域にある「仕込み室」で行います。そうして最終の揚げる作業とタレに漬け込む作業は清浄区域とされている別の厨房で行います。清浄区域にある厨房では、最終の加熱と盛り付けだけを行い下処理や下準備は行わない決まりです。

一見とてもよく出来たシステムに思いますし、実際にこうした区分けを行うことで食中毒を防げる可能性が高くなるかもしれません。

しかしこうすることによって実は提供する料理の質をとても犠牲にしているんです。

先の南蛮漬けを例にとりますと、清浄区域の厨房で調理師が最終の過熱調理を行う場合を想像して下さい。最終の調理を行うには、その厨房で野菜をカットしたり鰺を捌いたり出来ないわけですから、非清浄区域の厨房で作業が終わるのを待つ必要があります。

ところが実際の現場でいちいち別の厨房の作業を待ちながら仕事をする事はとても効率が悪いので非清浄区域の厨房で行う仕込み作業は、清浄区域での調理が始まる前に全て終わっておく必要があります。

するとどうなるか。その日調理する食材の下準備は全て前日に終わらせる事になります。

つまり火曜日の食事で使う為の野菜は月曜日中に全てカットされたり皮をむいたりして、朝昼夕それぞれの材料に区分けして翌日まで保管される事になります。肉や魚も同じで、冷凍物であれば前日に解凍処理されて保管されますし、冷凍ではない生の食材もすぐに使えるように一人前の大きさにカットして材料用の冷蔵庫に保管します。

肉も魚も小さくカットすれば必ずドリップが出ますが、これは旨味が流れ出ている状態です。カットして空気に触れる面積が増えればそれだけ酸化が進みますから鮮度も失われます。肉類に限らず野菜でも同じ事が言えます。

つまり「安全」を守るために食材の美味しさや鮮度すら犠牲にして提供するのが給食施設の料理という事になります。

料理の味というのは使う食材の状態に大きく左右されるわけですから、いくら腕の良い調理師が調理しても、エキスの流れ出た肉と鮮度の落ちた野菜を使って美味しい料理は難しいといった事になってしまいます。これが現実です。

しかもそういった施設は一度に大量調理をします。何十人分や時には何百人分を一気に作って一気に提供します。そういった給食施設では食中毒菌が繁殖する時間を作らないために、実際に料理を提供する時間の何時間前までは調理をしてはならないなど施設毎に基準が設けられています。だいたい3時間前あたりが多いのですが、昼の12時に提供する料理は朝の9時より早くに作り始めてはいけないといった事になります。

例えば美味しい唐揚げを作りたいと考えます。その為にタレに2時間は漬け込みたいと思っても、実際に揚げる時間や盛り付けする時間を考えるとせいぜい30分の漬け込みが限界だったりします。全ての料理を3時間以内に作って盛り付けまでしてしまわなければなりませんので、この時間内にご飯を炊き味噌汁を作り主菜と副菜など数種類のおかずを作らなければなりませんから、施設で働く調理師さんはなかなかの重労働と言えます。なのに一般のお店などと比べても給料は高くありません。

これでは良い調理師さんが集まってこないので結果的に美味しい料理が提供されないといった悪循環も生まれます。

長々と料理が不味くなる理由を書いてしまいましたが、最後に知っておいていただきたいのは、これだけの犠牲を払ってでも守らなければならないのが「安全」だという事です。特に老人の施設などで食中毒を起こすと、そのまま命に直結します。調理師は一般的に社会的地位が高いとは言えない職種ですが、日々こうしたプレッシャーを感じながら仕事をしている事も知っていただければと思います。

(その1はこちら)

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