私は現在大阪の街中で暮らしていますが、生まれ育ったのは大変な田舎でした。どこの家も玄関にカギなどかけませんし、住民はお互い物心ついた頃から知っている人達ばかりで構成されていますのでプライベートに関する遠慮もありません。
留守宅にカギのかかっていない玄関から勝手に入って行き大根や白菜を黙って置いて帰るなどは当たり前でした。
野菜を置く現場を見ていなくても、一体誰が野菜を置いていってくれたのか当人同士は皆分かっているのも田舎の不思議なところです。
私が田舎を離れて40年ほど経ちますので、現在は違うかもしれませんが、少なくとも当時はそんな感じでした。
一方、都会の暮らしで仕事から帰ってみたら玄関先に送り主不明の野菜が置かれていたら相当驚くと思いますし、恐らくせっかくの野菜も気味悪がって食べないのではないでしょうか。
とにかく都会の暮らしと山奥の農村の暮らしは、人との関わり方が全くといって良いほど違います。
こうした違いは当然「介護生活」にも現れてきます。
私は10年程前に、父を介護するために一時期単身で田舎に帰っていた事があります。
田舎の家で父と二人暮らしをしながら介護生活を送っていたのですが、その時にも田舎ならではの体験を色々させていただきました。
田舎の村では男が男を介護しているというだけで完全に「気の毒」な家庭に分類されてしまいます。
恐らく村の井戸端会議などでは頻繁に私の家の事が噂されていたはずです。
「あそこの家は息子さんが何十年ぶりに帰ってきて介護してはるけれど、男所帯やし、ほんまに気の毒やねえ。都会の嫁はいったい何してんのやろ。」といった具合です。
そんな事もあり、お隣さんやそのまたお隣さんなどがちょくちょく食べ物を持ってきてくれました。
実際には、私は調理師ですし食事の用意に困ることは無かったのですが、村の人達は困っているに違いないと思って色々差し入れてくれるわけです。
私の幼なじみの歳取ったお母さんが、ただ私の顔を見る目的だけで訪ねてきて、ついでに父を見舞ってくれたりもしました。
一方、都会の介護生活ではこうしたことは起こりません。私は妻の実家で要介護の義母と同居していましたが、家に来るお客さんは介護サービス関係の人ばかり。ケアマネさんやデイサービスのお迎え介護士さんくらいなものです。
それが悪いわけではありませんが、要介護のお年寄りにとって、古い顔なじみが来てくれたりするだけで随分と気分が変わると思います。
そう考えると、お年寄りにとってご近所さんというのはとてもありがたい存在だと思うのですが、都会では気軽にご近所さんの家を訪ねる雰囲気はありませんし、心理的な距離感も田舎のご近所さんとは全く違います。
その事を自分の老後に当てはめて考えた時、やっぱり介護保険のサービスを頼るしかないのだろうなと思うのですが、その頃の世の中は介護保険の仕組みも含めて、いったいどんな世の中になっているのでしょうか。
つくづく先の見えない世の中に、我々は生きているのだなと思います。