食欲と偏食と栄養

介護施設の食事はすべて栄養士が献立を担当します。

一般の方は栄養士が考えた献立なら栄養の面で心配のない食事が提供されると考えます。当然ですね。

ただ、これは提供された食事を完食した場合に栄養が過不足無く摂取出来ますという事で、実際に介護施設で全部の人が三度の食事をいつも完食するわけではありません。

だいたいの傾向として、完食する人はいつも完食しますが残す人はいつも残してしまいます。

介護施設では介護士さんが食事の残り具合を毎食必ず確認して残食表に記入しますので、お年寄りの食事の摂取状況は表を見れば一目瞭然に分かる仕組みになっています。

施設ではこんな風に栄養管理がなされているわけですが、これが自宅介護となるとそういうわけにもいきません。

自分が介護している家族の栄養状態など何となく感覚でしか把握出来ないものです。

最近残し気味だからもっと食べさせないととか、そう言えば野菜を食べさせていなかったなどと思うだけで、自分が栄養的にも量的にもバランスの取れた食事を提供出来ているかなどは中々判断がつかないと思います。

ただ、私はそれで良いと思います。

介護施設でいつも食事を残す方がどんどん痩せ細ってバタバタ倒れるといった事はありませんから、適正な食事の量というものにも個人差があると考えるべきです。

現場での実感として、食べる量にかなりの差があっても皆さん普通に元気です。

栄養バランスという事に関して言えば、日本人が普通に食べるものを普通に提供していれば概ね問題ありません。ただ、歳を取るとタンパク質の吸収率が落ちるので、これを多めに意識したバランスに変えることはおすすめします。

量に関しては先にも書いたように個人差が激しいですので、本人が食べられるだけ食べさせる事がやはり答えになります。

ひとつ極端な例を挙げます。

私が関わっていた施設の入居者さんで肉類を一切食べない方がいらっしゃいました。

その上主食のご飯もなぜか食べません。それでは体が保たないからお粥なら食べるかと思い提供しても食べません。今度は重湯を提供してみましたが、結局それも手を付けません。結果的にこの方は、いつも汁物と野菜のおかずしか食べない食生活を続けていますが、問題無く生活出来ています。

この方の場合、普通に考えてカロリーは絶対的に不足しています。その分ゼリーなどで補充していましたが、元々食が細く長年そんな食生活で生きてきた様でした。

ですので本人的にはそれで問題ないわけですが、かなりの高齢ですしベジタリアンというわけでもなさそうですし、単なる偏食を続けてきて現在に至るというのが真相の様でした。

こんな食生活でも人間長生き出来るものなんだなとこの人を見て驚いてしまいました。

まあこれは極端な例ですが、これだけの偏食で小食でも長生き出来るわけです。

自分が長年関わってきた家族なら今までどんな食事をしてきたか分かっている訳ですから、あまり難しいことを考えずに、気楽に食べるものを食べるだけ食べさせると言うことを基本にすればいいのではと思います。

終わりの見えない介護生活は、心にゆとりを持つと言うことが一番大切です。気楽に気長に寄り添えばいいのではないでしょうか。

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