食事は食事、薬は薬

介護施設でよく目にする光景に「薬を食事に混ぜ込んで食べさせる」というのがあります。

粉薬をお粥やトロミを付けた味噌汁などに溶かし込んで食べさせるのですが、普通に考えて薬が美味しいわけもなく、それが混ざった料理の味が変わってしまうのは想像つきます。

勿論、自力で食事が出来る様な人は薬も自分で飲みますのでそんな事はしませんが、食事介助が必須な人に対してそうした行為が行われている光景を施設ではよく目にします。

これはそうした指示を医師から受けている場合もあるでしょうし、うまく薬が飲めない人に対して色々試行錯誤したあげくにそうした事に落ち着いている事もあるのかなと思います。

料理を提供している調理師からするとやめて欲しい行為になるのですが、施設の場合は仕方ない面もあるのでしょうね。

ところで薬を食事に混ぜ込んで食べさせた場合に頭に浮かぶ素朴な疑問があります。

通常、医薬品というのは厳密に用量が決められており体重何キロなら薬は何グラムといった風に処方されているはずです。

しかし冒頭に書いたように食事に混ぜ込んで投与した場合、決められた用量を摂るためにはその料理を全部食べる事が前提になってしまいます。

ところが食事介助が必須なお年寄りというのは、全部の料理をきれいに食べきる事などほとんどありません。

場合によっては一口二口程度口を付けただけであとは全部残すことなどもあります。

こうした場合は当然料理に混ぜ込んだ薬も中途半端な量しか摂取出来ていないことになります。

これってどうなんでしょうか。

私個人的には薬よりも食事をしっかり摂る方がお年寄りの体にとって大切な事ではないかと思っていまして、薬を料理に混ぜ込む事で料理の味が変わり、それが原因で食事を残す様な事があるとすれば本末転倒ではないかと思います。

要介護のお年寄りというのは薬を飲んだからといって抱えている病気が完治するわけではありません。せいぜい現状維持を目指すのが関の山なことは医療関係者も介護関係者も皆分かっている事です。

そうであるなら、やはり食事は食事としてしっかり楽しんでもらい、そのうえで薬を飲んで貰うことが最もお年寄りに寄り添った介護になるのではないでしょうか。

そしてもし薬を飲めない事があったとしても、それを許してあげてほしいと思います。

こんなことを言うと身も蓋もありませんが、もしかしたら明日天国に旅立つかもしれないお年寄りにとって、一回の食事は常に人生最後の食事かもしれないわけです。

食事介助する介護士も料理を提供する調理師も、その事をしっかり意識してほしいと思わずにはいられません。

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