介護する人される人

私が父親の介護をしていた話しは以前にもこのコラムで書いたことがありますが、その時にしみじみと思った事があります。

それは、介護ってする方も大変だけど、される方も慣れるまで相当大変だなという事です。

私の父は要介護度4で亡くなりましたが、当初私が同居で面倒を見始めたときには要介護認定を受けていませんでした。

それだと介護保険も使えませんのですぐに要介護認定を受けさせたのですが、最初は確か「要支援2」くらいだった気がします。すみません。はっきりと覚えていません。

つまりその頃は、自力でお風呂も入れてトイレも出来てまだ車の運転もしていました。

車の運転と言うとびっくりされるかもしれませんが、これが出来ないと一人で生活することはほぼ不可能なのが田舎という環境です。

そんな程度の状態でしたが、同居してしばらく経つとほっとしたんでしょうかね、すぐに車の運転は止めてしまいました。

私は父がやりたいと思う事を制限するつもりはありませんでしたので、車の運転も本人の意志に任せようと思っていましたが、すぐにやめてしまいました。

そのうちに段々と生活に手が掛かるようになって行くのですが、私には勿論それまで介護の経験などありません。父だって介護されたことなど無いわけです。

ですからお互い手探りの中で少しずつ着地点を見つけていく感じでした。

特にトイレに関わる事は本人も中々頼みづらいものでしょうし、こちらも出来れば避けたいと思っていた部分でしたので、そこがきっちりするのはやはり時間がかかった様に思います。

父の場合、理由は分かりませんが睾丸がソフトボールくらいの大きさに腫れ上がる症状がありまして、そのせいなのか小便と大便のどちらを出しているのか本人が自覚できなくなっていました。それが分かってからはオムツを着けさせたのですが、最初はオムツを着けることを嫌がりました。しかし何度か下着を汚してしまうことが続くとようやく納得してくれるようになりました。

この頃になるとお風呂も入れなくなっていましたから、毎晩就寝前に全身を使い捨ての介護用タオルで拭くのが日課だったのですが、とりわけ股間から肛門にかけての部分は便があちこちに付いている関係で念入りに拭き取ります。

私は男ですし、無言でゴシゴシとやるのですが、父はいつも拭かれている間中「おおきに、おおきに、すまん、すまん」とお礼を言ってくれました。

そんな事を言う感じの人では無かったのですが、嬉しかったのですかね。

それとも介護してもらう事に慣れたからでしょうか。

とにかく体を拭いている間中ずっと「おおきに、おおきに、すまん、すまん」と言っていました。

それで私も調子に乗ってどんどんゴシゴシやるわけですが、この頃にようやく自分がして欲しいことを遠慮無く私に言う様になっていました。

つまりようやく介護される事に慣れてきたんだろうと思います。

最初は何かと不慣れな状態で介護生活がスタートし、そうしてだんだんと遠慮も無くなって行き少しは安心して生活出来る様になってゆく…。

残り少ない時間の中で、介護する人も介護される人も、本当に貴重な体験を最後まで積み上げて行くのだと思います。