好きな物を食べる事の大切さ

私は自分の父親を約2年弱一人で介護し、最後は自宅で看取った経験があります。

高校を卒業して以降実家を離れて暮らしていた私は、父が体調を崩した頃も実家から車で3時間ほどの距離で自分の家族と暮らしていました。

その頃の父はすでに一人暮らしになって丸8年程が経過していましたが、地域の皆さんに支えられながらそれなりに不自由のない生活を送っていました。

その父が段々と弱気な事を口にするようになり、めったにかけてこない電話もかけてくるようになり、ついには私が単身で実家に戻り同居しながら介護生活をスタートする事となりました。

元々大変に食いしん坊で酒飲みだった父は、とにかく食べ物についてうるさいんです。

私は調理師ですし、自宅でも食事の用意は私がすることが多かったので実家での食事の事は何も心配していませんでした。

それで久しぶりに実家近くのスーパーで買い物をして父に食べさせる食事を作ったのですが、魚の煮付けの味とかご飯の堅さとか、どうも不満があるようでした。

当時だいぶ噛む力が弱くなっていたんでしょうね。ごく普通に炊いたご飯が固いと言うので、結局お粥にする事になりました。

煮物の味つけも、昔の母の味を頑張って思い出しながら苦心をして作りました。

そうするうちに父の方も私の味つけに慣れてきたんでしょうね。

そんなに文句も言わなくなり食べるようになりました。

ただ、やはり体調はどんどん悪くなり、食欲も減退して行きました。

好きなお酒も段々と飲めなくなってゆくのですが、大好物のウナギを買ってきたときだけは、普通に炊いたご飯でウナギ丼を食べることが出来ていました。

そんな時は大好きなビールも一緒に飲んでご満悦でした。

もう自分の残り時間がほとんど無いことを知っていたはずですが、

その貴重な時間に大好物のウナギを息子と二人で食べる事が、父にとってはとても楽しい時間だったのだと今では思っています。

今でも毎年父の命日にはウナギを買ってきてお供えしていますが、果たして私の息子達は私があの世に行ってから一体何をお供えしてくれるのでしょうかねえ。

多分何もしてくれない気がする今日この頃です。