前回のコラムで、日本では塩分を摂りすぎなので減らすことが推奨されていることを書きました。推奨されている塩分量は男性7.5g女性が6.5gという事もご紹介しました。
今回はそうした「減塩に関する常識」を少し疑ってみてはという提案をしてみたいと思います。
日本で「減塩」が盛んに言われるようになったのは一体いつ頃からでしょうか。私の記憶では1970年代にはすでに言われていた様に思います。ちなみに現在の日本人の塩分摂取量はだいたい10〜12gほどとされていまして、戦前の20gから半減した事になります。
これは食の欧米化が主な原因だと思われますが、社会をあげての減塩運動が功を奏した部分も当然あると考えて良いのではないでしょうか。
この様に塩分に関する「常識」はすでに何十年にも渡って日本の社会で信じられていますので、これを上書きすることはなかなか難しいと思います。
そんな中、その「常識」に異議を唱える専門家もちゃんと存在していまして、テレビなどで取り上げられることが無いために認知されていませんが、つまり減塩については専門家の意見が分かれた状態のまま世間の「常識」だけが定まってしまったと言えます。
具体的な例をあげます。今年2022年4月に発売された「本当に役立つ栄養学(佐藤成美著)」からの引用です。少し長いですがご紹介します。(以下引用P52〜53)
“国立健康・栄養研究所などによる研究で、食塩を1日に6g摂取した被験者と、10g摂取した被験者の汗に含まれるミネラル(ナトリウム、カルシウム、マグネシウム)の量を測定したものがあります。それによれば、食塩の摂取量が少ないほうが汗に含まれるナトリウム量が少なく、カルシウムやマグネシウムの量は多いという結果になりました。
汗中のナトリウム量が減ったのは、ナトリウムの放出を防ぐためで、1日6gの食塩摂取では、体内のナトリウムは不足すると考えられました。また、体内にはナトリウムが不足すると、骨に蓄えられたナトリウムを使う仕組みがあります。このとき、カルシウムとマグネシウムも一緒に骨から放出されたものの、使われなかったため、血液中で多くなり、汗中のカルシウムやマグネシウムの量が多かったと考えられています。
通常では、ナトリウムは便からもわずかに失われます。実験では、下痢をすると便の水分が増え、ナトリウムの損失量が増えることから、下痢ではナトリウムは便の水分とも一緒に放出されることがわかりました。また、食塩の摂取量を1日6gにすると、便の中の水分が減り、便秘しやすくなったといいます。便の水分量が減ったのもナトリウムの放出を防ぐためでしょう。汗や尿、便とともに放出されるナトリウムの量は食塩の摂取量に依存しており、ナトリウムの摂取量が少ないと、カルシウムやマグネシウムが体から失われるということも明らかになりました。”
(引用ここまで)
いかがでしょうか。この本では、1日6gの塩分摂取では少ないとはっきり書かれています。減塩がカルシウムの流出を招くとも書かれていますので、骨粗鬆症が心配なお年寄りと閉経後の女性は、逆に塩分をしっかり摂った方が良いという理屈も成り立ちます。
勿論、減塩運動が功を奏して平均寿命が延びたと言われる東北や長野などの例もありますので、日本人が塩分を摂り過ぎだったことは確かなのかもしれません。東北や長野では日本の平均塩分摂取量を大幅に上回る量の塩分を摂取していた様ですから、こうした地域に対して減塩運動は有効だったと言えると思います。
しかしだからと言って、とにかく減塩は体に良いと盲信すれば極端な減塩に走ることになり健康を害する事に繋がります。何事もほどほどが良いという事です。
塩分摂取量については、最近少しずつですが上記の様な情報も出てくるようになりましたので、今後世論の風向きが変わる可能性もあるのではと思います。
自分の健康は自分で責任を持つしかありません。あふれる情報に惑わされること無くしっかりと考えて生活したいものです。