施設の食事が不味くなると起こる事

老人向け介護施設に入居すると食事は基本的に施設の食堂か居室で、施設から提供された料理を食べることになります。

自分で主体的に何かしらの料理を作ったり選んだりして食べる事は原則的に出来ません。

個室にキッチンが付いているタイプの施設であれば出来なくもないですが、そうした施設で実際に調理して三食食べている方はとても稀だと思います。

その上こうした施設の多くは厨房業務をそのまま外部の業者に委託するのが普通です。

通常は委託された給食の専門業者が施設側の要望を受ける形で食事の提供をしています。

給食業者は施設に対して献立の提案をして、それを施設側が了承すれば了承された内容の献立が毎日毎食提供される事になります。

こうして介護施設の食事は続いていくわけですが、だいたいどこの施設でも月に一回程度食事に関して施設側と給食業者の会議がありまして、食事の内容について意見が交わされます。

ここで問題なのは、食事や料理に関して介護施設の方はプロではないと言うことです。プロではないから専門業者に委託するわけですから。

実際には施設によって自前の栄養士を雇っている場合もありますが、雇っていない場合もあります。施設の栄養士は調理をする機会はありませんのでやることと言えば、提出された献立表を栄養士としてチェックする事と実際に出された料理の写真を見てチェックする事くらいになります。

そうした中で業者と施設との会議が行われるのですが、施設から出される要望を業者は中々断れないといった事があります。業者にしてみれば雇い主が施設になるので、その意見を尊重するのは当然なわけです。

ここに実は施設での食事提供で起こる問題の多くが隠されています。

これは私が実際に経験した事なのですが、ある高級なサービス付き高齢者住宅で人事異動があり、施設長が交代になりました。前任の施設長は料理に対して造詣が深くしっかりとした意見をお持ちでした。提供された食事に対するチェック体制もしっかりとしていて業者側も良い意味での緊張感を持ちながら食事を提供していました。

ところが新しい施設長は食事に関して全くセンスの無い方で、食事を重要視していませんでした。着任してすぐに今までのチェック体制を廃止すると同時に委託業者も、より料金の安い業者に変更してしまいました。

更に悪いことにセンスのない施設長からセンスのない提案が色々となされ、それを新しい業者は全て丸呑みしてしまった事です。

その結果、提供される食事の内容は大きく変わる事になり、高級で美味しい料理が売りだったそのサービス付き高齢者住宅から出て行く人が続出してしまいました。

あわてて食事内容をもっと良くして欲しいと要望があったのですが、安い料金で契約した業者に出来ることは限られています。結局悪循環を断ち切ることが出来ずに現在も同じ状況が続いてしまっています。

ここで私が言いたいことは、入居者にとって施設は終の棲家であり、そこでの食事は生きていく上での大きな楽しみであると同時に健康にも直結する「日常」になります。

人というのは「日常」に不満があるとそれを解消しようとするのは当たり前の行為です。食事という日常に不満があれば、別の施設で暮らす事を考えるのは当然なわけです。

施設を出て行く決断をしたお年寄りにとっても、出て行かれた施設にとってもお互い望まない結果を招いてしまった事になります。

安い業者にチェンジする事で目先の利益を優先した結果が逆に不利益を招いたという話しですが、不味い料理は誰も幸せにしないという事実を教えてくれる話しでもありました。

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