諦めの効用

私は身内の介護を経験した後に、色々な介護施設に出入りするようになり、そこで多くのお年寄りやそのご家族を見る経験をさせていただきました。

つまり介護する者としての心理的な移ろいを一通り経験した後でお年寄りやご家族の状況をみる機会に恵まれました。

そんな私の目から見て、色々悩まれているご家族は思い入れといいますか、お年寄りに対して頑張って欲しいという気持ちが強い方が多いと感じます。

例えば、リハビリを頑張ればまた一人で歩けるようになると希望を抱いている場合などです。

勿論、希望を持つなとは言いませんし希望を持つことで日々の生活に張りも生まれ実際に歩けるようになるかもしれません。

ただその分、リハビリがうまく行かなかった時の落ち込みや不満も大きくなりますし、介護する側の家族としては心の中の半分くらいは「多分ダメだろう」くらいに思っておいた方が冷静にお年寄りの状況を見ることが出来ると思います。

つまり良い意味で最初から諦めておくわけです。

こうした「諦めた」状態で見ていると、少しの好転現象でも喜ぶことが出来ますから、介護する側の心のケアにも繋がります。

特に家庭での介護生活では、介護する側の心の余裕が何と言っても大切ですから、これは大事なポイントです。

これは仏教の教えにも通じる部分で、仏教の大切な教えである「執着を手放す」といった事にも関係してきます。

物事をありのままに見てあるがままに受け入れる事が出来れば、全ての悩みから解放されると言うのが仏教で教える「悟り」になるわけですが、良い意味での「諦め」はこの事に通じると思います。

心の中に希望だったり欲求や欲望があればある程、目の前の現象を「ありのままに」見ることが出来なくなります。これは人間なら致し方ない部分です。

どうせ「ありのまま」に見ることが出来ないのなら、せめて現在の状況をあるがままに受け入れる準備を心の中でしておく。その為のテクニックが良い意味での「諦め」だと思います。

決してネガティブになろうと言っている訳ではありません。

強すぎる思い入れは、あまりお年寄りも介護者自身も幸せにしないのではと、経験上感じているだけです。

日々の介護生活の中で、「こうしてくれたらもっと良くなるのに」といった種類の不満が心に出てきたら、まずは大きく深呼吸して、そして前向きに諦めてみませんか。

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