特別ではない介護食

介護施設で調理師として仕事をしていますと、本当に様々なタイプのオーダーが入ります。基本的には「刻み食」「ミキサー食」「普通食」の三種類なのですが、刻み食の中にも「粗刻み」や「極刻み」など色々ありますし、刻んだうえでトロミを付ける「刻みトロミ食」なんかもあります。これはその施設によって色々に設定されていて、一律に決まっているわけではありません。私の経験したちょっと変わったオーダーは、主食のご飯は「おもゆ」の指定なのにおかずは全部普通食というのもありました。

施設の場合はこんな風にあらかじめ利用者さんの食事形態が決められていて、そこから外れる料理を提供する事は出来ません。

しかしご家庭で介護をされている場合だと、その日の体調や気分に合わせて色々に変化を付けることが出来ますし、歯が悪いからと何でもかんでも刻んで食べさせるのも可哀想だと思います。

以前別の記事でも書いたことがありますが、「介護食」というのは噛む力や嚥下機能の衰えたお年寄りでも食べやすい料理であればいいわけです。ではどんな料理が食べやすいかと言うと「やわらかくしっとり仕上がった喉越しの良い料理」となるのですが、この条件全部が整っていなくてもかまいません。

細かい事を気にし出すときりがないですし、多少の食べにくさを感じてもらうことも実は機能維持の面で役に立つこともあります。

例えばお年寄りの場合、一度失った機能を復活させることは中々難しいですから、顎の筋肉を衰えさせない意味でも、定期的に「しっかり噛む必要のある」料理を出す事なども悪いことではありませんし、本人がちゃんと食べてくれるならそれも立派な介護食です。

勿論、あくまで食べてくれたらの話しですが…。

それから料理や飲み物にトロミをつける事についても、トロミを付けたからと言って絶対に誤嚥しないわけではありません。そもそも寝ている間に唾液を誤嚥する事で誤嚥性肺炎を起こすことだってあるわけです。

そう考えると、やはり食事という物は一番に「楽しさ」と「美味しさ」にこだわっていただく事が介護の面においても正しい考え方なのだろうと思います。

要介護度が上がってきて、ほとんど自宅から出られなくなったお年寄りにとって、食事は一番の楽しみであり一日の中の大きなイベントです。

しかも人間は死ぬまで食べる事を辞められません。

特別な場合を除き、

食事はあくまで「日常」であって「医療」ではありません。

繰り返される日常の中で、今日もご飯を作って、食べて、生きていく。

そうしていつかその日常にも終わりが来る。

それが人生ではないでしょうか。

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