病院や学校など、一度に大量に調理して提供される料理はどの場合も「味」より「安全」が優先されます。
この傾向は老人向けの介護施設では更に強化されまして、味を優先したい調理師としてはそこまでしなくてもと思うような事を日々行いながら調理しています。
食中毒というのは、食中毒を起こすレベルの大量の食中毒菌が付着した料理を食べた場合に起こすわけですが、お年寄りの場合、ほんの少し悪い菌が付着していても調子が悪くなる事があるからです。
そうした事を避けるために、給食施設で働く人は全て定期的に検便をして、食中毒菌の保菌者になっていないかチェックする決まりになっています。
「食中毒菌の保菌者」と言われてもピンとこないと思いますが、実は普段の食事の中で我々は知らず知らずの内に食中毒菌を体内に取り込んでいる事があります。
例えば、鶏肉などから多く検出されるサルモネラ菌はその可能性の高い菌と言えます。
ただ、そうした菌を食べてしまっても、数が少なければ菌から出される毒素も少ないですので元気な人は無症状だったり軽い下痢程度で済んでしまい、しばらくすると菌はそのまま便として排出されてしまいます。
ただこの「無症状保菌者」の状態の人が厨房に入ってしまうと、菌をばらまく可能性が高まってしまいますので、定期的に検便を行うわけです。
私自身は幸いにも無症状保菌者にはなった事がありませんが、一緒に働いていた方が保菌者になってしまい出勤停止になった事はありました。
ただ、検便による検査はせいぜい月に1〜2回ほどしか行わないのに対して、無症状の保菌者になる可能性は普通に生活していれば毎日あるわけですから、厨房の現場では神経質にならざるを得ないわけです。
そんなわけで、味より安全を優先することは致し方ないのですが、それが日常になるとだんだん味に関して細かい注意を払わなくなる調理師さんもいらっしゃって、ここら辺りが難しい所です。
特にお年寄りの施設の場合、衛生の部分に注意を向けると同時に料理の「硬さ」にも気をつける必要があり、必要以上に下処理に時間をかける事も多いのですが、これが日常になると素材の「食感」などには注意がむかなくなります。
本当は歯ごたえを残して仕上げたい料理もとことん柔らかくして提供した方がクレームが来ないので、いつもそうやっている内に何もかもそんな風に作っている事に気づくこともあります。
調理師という仕事は、美味しいお料理を作って提供する事が仕事なのですが、給食施設ではそうもいかない現実があるというお話しでした。