人間、どんな緊迫した場面に置かれても、その状況が長く続くと段々と緊張感が薄れてしまうものです。それは人間の生理的な側面であり仕方ない事かもしれません。
しかし人の生き死にが関わった場面では、そうも言っていられないという話しを書いてみたいと思います。
私の親しくしている介護士さんから聞いた話しです。当時私はその介護士さんと同じ施設で調理師として働いていました。
そこでは私は朝食を担当することが多く、夜勤明けの介護士さんと最初に挨拶を交わすのが早出の調理師でした。
その日も朝食担当で朝の5時過ぎ頃に出勤し、夜勤明けの介護士さんと挨拶をしたのですが、一目見て疲れ切っている状態が見て取れました。
それで後日その日の事を当の介護士さんに聞いてみたんです。「あの日とてもくたびれた顔してたけど何かあった?」って。
そうしましたら、機関銃のごとくその日の夜中にあった出来事を一気に聞かせてくれました。その介護士さんは今でも怒りが収まらないといった感じでしたが、こんな話しです。
その日の深夜に、肺に疾患を持っている入居者さんからコールがあった。
それで急いでその方の居室に伺ったところ、呼吸が苦しくてたまらない。なんか変だから医者を呼んで欲しいとの事だったそうです。
実はその施設は病院がある建物の中にあり、こういった場合はすぐに同じ建物内にある病院の救急へ連れて行く決まりになっていました。
それですぐにその方を車椅子に乗せ、エレベータで階下にある病院の救急へ連れて行ったそうです。
たまたまその時別の急患があったので、待合で待つことになったそうですが、救急によくある話しで、先の患者さんの処置に時間がかかっていて中々呼ばれなかったそうです。
仕方ないので、息が苦しいと訴える入居者さんをなだめすかしながらじっと待っていたそうです。
その間にも様態はどんどん悪くなっていき、だんだん虫の息の様になってきました。それでも我慢して待っていたそうなのですが、とうとうその入居者さんの体にチアノーゼが出るに至りました。
ついに介護士さんは意を決して診察室に入っていき、状況を訴えたらしいのですが、何とその診察室ではすでに処置は終わっていて医師と患者さんを含めた皆で何やら楽しそうに談笑していたそうです。
もちろんそのこと自体悪いことではないでしょうが、救急の患者さんが次に控えている状況なら、少なくとも看護師などが待合の様子をもう少し緊張感を持って見ておくべきではなかったかというのが介護士さんの怒りの原因でした。
介護士さんの機転でその入居者さんは何とか死なずにすみましたが、確かに介護士さんの言うとおりだと思いました。
恐らくその日の救急担当スタッフも真面目に仕事をされていたのだと思います。
しかし時間帯が進むにつれて段々と緊張感も薄れてきます。そんなタイミングで起こった事ではなかったかと推察するのですが、事は人の生死がかかっている場面でした。
その日のスタッフさんにもう少し凜とした職業意識があればこんな事はなかったのではないかと思う次第です。