栄養士はシナリオライター

学校や病院などは勿論のこと、老人向けの介護施設にも栄養士さんは必ず居ます。

私は調理師として何人もの栄養士さんと仕事をしてきましたが、キャリアが長いからといって仕事内容が素晴らしいと限らないのは調理師と同じです。

これは学校を出て最初に就職した職場で、きっちり教育を受けると同時に良い経験を積める現場で働いたかという事が大きく関わってきます。

どんな仕事でも、新人と認識されている間は周りの人があれこれ注意してくれますしダメだしもしてくれますが、ある程度時間が経つと誰も何も言ってくれなくなります。

そうなる前に、自覚的に専門性を磨き、自分から教えを請う姿勢を持つ事がやはり一番大切なのだと思います。

数年前の話しです。

その施設の栄養士は入社2年目の女性でした。真面目でとてもしっかりとした性格の持ち主でしたから、すぐに現場にも慣れてバリバリ働くようになるだろうと思って見ていたのですが、どう見ても伸び悩んでいました。

それで気になって会社で受けている研修の内容など聞いてみたのですが、衛生面の話しが主で、基本的にはテクニカルな事しか教えて貰っていない様でした。

それを聞いて、これでは肝心な「職業意識」が育ちようもないと思いました。

プロ意識と言い換えてもいいですが、現場での栄養士の役割と重要性などについて、誰にも教えて貰ったことが無いようでした。

これでは責任感を持って仕事に向き合うことが出来ないと思いましたので、介護施設での栄養士の立ち位置について私なりの考えを例えを用いながら教えたことがあります。

こんな感じです。

「栄養士は映画制作で例えるとシナリオライターです。所長(施設長)は映画監督で調理師は俳優です。いくら名監督が撮影しても俳優が役作りをしても、シナリオが良くなければ面白い映画になりようがありません。施設の現場では栄養士の書いた献立(シナリオ)に沿って全ての業務が進んでいきます。それほどに重要な仕事を任されているのですから、その自覚を持って仕事をしていきましょう。」

この時には、献立の内容に気づいて欲しい箇所が多かったのですが、個別のテクニカルな事を覚える前に、しっかりとした栄養士としての職業意識を持ってほしかったのでこんな例え話をしました。

栄養士としての自分が、一体どれほど重要な仕事を任されているのか知る事が出来れば、自ずと責任感も育ち、献立の内容についても、誰かに指摘されずとも自分でブラッシュアップして行ける様になるのではないかと考えたからです。

ところで先日、同じ現場で働いていた若い栄養士の女性が仕事を辞めたのですが、もう栄養士の仕事はしたくないと言っていました。

勿論それも自由ですし他人がとやかく言う事ではないのですが、本物のプロになる前にやめてしまうことは、やはり勿体ないと思った出来事でした。

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