閑話休題「入れ歯は何処に行った?」

老人向けの介護施設で仕事をしていますと、どこの施設に行っても必ず一度は遭遇する問題が「入れ歯は何処に行った?」問題です。

経験上、行方不明になった入れ歯のほとんどは何処かから出てきて事なきを得ます。

ただ、見つかるまでは結構大騒ぎになる事も多く、私の持ち場である厨房にもそうした騒ぎが波及することもしばしばです。

一番困るのが食後に行方不明になるパターンで、この場合はすでにゴミ箱に廃棄された残飯などもひっくり返して探すといった事態になることもあります。

普通、残飯入れの中に入れ歯が入っていれば分かりそうなものなのでそこまでやらない事の方が多いのですが、無くした本人が食事中に入れ歯を外したとか、トレイの上に忘れたと主張する事もあり、そうなると俄然ゴミ箱が怪しく見えてきますのでゴミ箱の中身をひっくり返して探すという大がかりな事に発展してしまいます。

ご存じない方の為に説明しますと、介護施設の残飯というのは実際に廃棄する前に重さを計量する決まりになっている事も多いですし、1人1人の食べ残し量を担当の介護士さんが全てチェックする決まりになっている事も多いです。

ですのでお膳の上に入れ歯がのっていれば分かると思うのですが、時々ご本人がティッシュに包んで置いたなどと主張する事もあり、そうなるとうっかり廃棄している事もありえますのでゴミ箱をひっくり返す事態に発展するというわけです。

ただ、実際に入れ歯をそんな風に無くす方はほとんどが認知症の方ですので、証言そのものをいぶかしく思いながらも全く無視するわけにもいかず、事態はどんどん複雑になるというパターンに陥ります。

結局数日行方不明の状態が続いたあげくに、気がついたら本人が何食わぬ顔で入れ歯をしていたという事もありまして、認知症の方の場合、入れ歯をなくしたと騒いだ事実も忘れていたりしますので結果的に振り回されることは避けられないというのが介護施設の日常です。

ただ不思議なもので認知症の方のこうした事に関しては、そのせいで大騒ぎになったとしても全く腹が立ちません。

これは認知症の方に全く邪気が感じられないからで、その時その時の素直な言葉を話しているだけなので、逆に可愛さを感じることさえあります。

まあ勿論色々な認知症のパターンがありますので、可愛い人ばかりではありませんが…。

ところで入れ歯が無くなると、多くの場合介護士さんから厨房に食事形態の変更依頼が届きます。

今まで普通に食べていた方も、入れ歯が無いわけですから普通に噛んで食べる事が出来ず、刻み食にしてくれとか、一口サイズに切ってから提供してほしいなどの依頼が来ます。

入れ歯が見つかると逆に普通食に戻して下さいと依頼が来ますので、厨房のスタッフはその事で入れ歯事件の顛末を知る事になるわけです。

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