長らく在宅介護生活を送っていると、結果的に同じ物ばかり食べさせていたという事に気づくことがあります。
それはある程度仕方ない事ですし別に悪いことではないのですが、あまりにも変化が乏しいと食欲も刺激されませんので、時々は何かしら変化を付けることが望ましいのは間違いありません。
私の場合は、父の大好物がウナギと天ぷらでしたので、普段はそれなりに安くて手の掛からないもので済ませていても、時々ウナギを買って帰ったり天ぷらを揚げたりするととても喜んで食べてくれました。
特にウナギは温めてご飯に載せるだけですから手抜きをしたい時などにも重宝していました。
ところでお年寄りの好物が私の父の様に、ご飯のおかずになるものばかりとは限りません。
以前私が働いていた施設での話しです。
Aさんという90歳を過ぎた女性がいらっしゃいました。小柄で華奢な女性で、食も細い方でした。
食事を残しがちなAさんに施設の介護士さんや施設長さん、私も含めて何とかしっかり食べていただこうと知恵を絞っていたのですが、努力も虚しくいつも半分以上残す状況が続いていました。
食事の形態も普通食から刻み食になり、とうとうミキサー食になってしまいました。
認知症も進んできたので、食後の口腔ケアを介護士さんがされていたのですが、あるとき口の中から大きな粒あんが出てきたのだそうです。
その頃はすでにミキサー食になっていましたので、固形物が口の中から出てくることは本来ありえません。しかし出てきた。
それで色々調べてみたら、Aさんアンコの入ったお饅頭が大好物だった様で、ご家族が施設に様子を見に来る度に差し入れて貰っていたことが分かりました。
それを介護士に見つからないようにしておいてこっそりいつも食べていた様なんです。
つまり元々食が細い人なのに、食事の前に好物の饅頭を食べて肝心の食事が食べられなくなっていたというオチでした。
施設の都合としては饅頭ばかり食べてご飯を食べないのは困った事になるのですが、本人的には好きな饅頭が食べられたらそれで幸せなわけですし、私もそれで良いと思います。
何度も書いていますが、要介護のお年寄りの場合、今食べているモノが人生最後の食事になる可能性が他に比べてうんと高いわけです。だとすれば、それが栄養的に優れていようがいまいが、本人が主体的に食べたいものを食べるのが常に正解だと思います。
最後にまた父の話になりますが、父はお酒も大好きでした。
亡くなる前の晩、その頃父はもうほとんど何も食べられなくなっていたのですが、私が出した食事を少しだけ食べて、そして最後に大好きなチューハイを少しだけ飲みました。
それが最後の食事になったのですが、もしあの時、私がアルコールは体に悪いからと出さなかったら、多分今でも後悔していたと思います。