人間歳を取ると身体のあらゆる機能が衰えるわけですが、味覚も例外ではありません。
これは自分の子供の頃の味覚を思い出して大人になった現在の味覚と比べていただければ誰でも納得出来るかと思います。
子供の頃に好き嫌いが多いのはそれだけ味覚が敏感だからです。敏感だからちょっとした風味が鼻について食べられなかったりするわけですが、大人になるにつれそうした微妙な風味を感じなくなるので知らぬ間に嫌いな物が嫌いでは無くなっていたという事になるわけです。
東京カルチャーセンターが発行する介護食アドバイザーのテキストによると例えば塩味に対する感度は15〜29歳の層に比べて75〜89歳の層で約4倍も鈍感になります。不思議な事に甘味に関しては歳を取ってもここまでの変化は起こりません。
つまり、若い人は吸い物に塩が1グラム入っただけでも塩味を感じることが出来るとしたら、年寄りは4グラム入れないと塩味を感じにくいという事になります。
ところで、私が調理師として仕事をするときに気をつけていることがひとつあります。
それは、調理場に入る前に甘い物を食べないという事です。調理師の仕事は必ず作った料理の味見をするわけですが、この味見という行為が甘い物を食べてしまうと出来なくなってしまいます。特にチョコレートは最悪で、いつまでも舌の上に甘さが残ってしまいいくら水で口をゆすいでもしばらくは舌が痺れたようになって細かい味見が出来ません。
ところが塩辛い食べ物は少々食べても味見の感覚を邪魔することがありません。続けて味見をするときなども、間にちょっと水を口に含めばすぐに次の料理の味見が出来ます。私は学者ではありませんので何故そうなるのか理由は分かりませんが、経験的に「甘味」は舌の感覚を麻痺させる一方で「塩味」は舌の感覚を鈍らせることが無いと言うことは確かだと思います。
ところで加齢による味覚の変化はある程度仕方ないとして、栄養の偏りによる味覚の変化は避けることが出来ます。
よく知られたものとしては亜鉛の欠乏による味覚障害があります。
私も実際に亜鉛の欠乏で味覚障害になった人の話を聞いたことがありまして、その方は他人に味覚がおかしいよと指摘されるまで中々気付かないとおっしゃっていました。指摘されて始めて色々納得出来ることが思い当たるのだそうでして、これがもし要介護のお年寄りの場合だったら介護者がよほど気をつけていないと分からないかもしれません。
そうならない為には亜鉛が豊富に含まれた食品を食べさせるように心がける必要があります。亜鉛が多く含まれる食品としては牡蛎が代表選手ですが、他にも赤身の肉類や貝類、大豆やナッツ類などは亜鉛の豊富な食品として覚えておきましょう。
特に食が細いお年寄りは気をつける必要がありますし、高血圧や生活習慣病の薬を常用している方は、薬によって亜鉛の吸収を阻害するものがありますので注意が必要です。