お年寄り向けの介護施設には沢山の介護士さん達が働いています。日々こうした施設に出入りしていますと、介護士さん達の働きぶりがいやでも目に入ってきます。
寡黙に淡々と業務を進めていく方もいれば、手より口の方が沢山動いているパターンの方もいて、どちらが良いとか悪いとかでは無く両方必要な存在なのだと思います。
私の様に料理を作る仕事もそうなのですが、介護士さんを含めた対人のサービス業務を行う上での最も大事な能力は「考えなくても瞬間的に相手の身になれる」能力だと思います。
これを短い言葉で表すとどうなるのでしょうか…。共感力とでもいうのでしょうか…。
料理の仕事の場合だと、お客さんの顔を見た瞬間に「ちょっと体調悪そうだからサッパリ系のメニューのご注文かな」とか、「時間なさそうだから手早く提供しないと」など長年やっていると分かってくるものです。
介護士さんも恐らくそうだと思います。
自分が担当するお年寄りのその日の体調や気分がどうなのか、見た瞬間に判断出来る人も多いのではないでしょうか。
しかし介護士さんの場合は、お年寄りの機嫌が悪そうだからほったらかしにする事も出来ないですし、食欲が無さそうだから食事の介助をしないわけにもいきません。
施設で決められたおおよその時間内に食事を食べさせ、薬を飲ませ、清拭を済ませるなどやることが山ほどあります。
先日ある施設でこんなシーンを見かけました。
全くタイプの違う二人の介護士さんの話です。
一人の介護士さんはとても優しい雰囲気の介護士さんで、常にお年寄りとコミュニケーションを取りながら無理をさせる事なくケアを進めるタイプの方でした。仮にAさんとします。
もう一人の介護士さんは、かなりぶっきら棒な雰囲気の方で、女性ですが見た目もコワモテ。食事介助の時も無駄口は一切なしで淡々とお年寄りの口に料理を運ぶタイプです。仮にBさんとします。
この時、Aさんが担当していたお年寄りは全く食べる気が無く、Aさんが色々話しかけて食べさせようとするのですが中々食が進みません。
Bさんが担当していたお年寄りも同じく食べる気が起きなかった様で、無口なBさんが何度か食べるように促しても拒否をしていました。
そうするとBさんはすぐに食事介助をやめてお膳を下げてしまいました。
一方Aさんの方は、何とか少しでも食べて貰おうと悪戦苦闘しています。
結局かなり粘ったあげくに食べさせる事を諦めたのですが、この場合私はBさんの対応が正解だったと感じました。
人にとって食べたくもないのに無理矢理食べさせられる事ほど辛いことはありません。
業務に忠実で真面目なAさんは投薬の事なども頭にあったのでしょう、とにかく少しでも食べて頂こうと粘りました。
一方Bさんがこの時どういう判断ですぐに下膳したのか私には分かりませんが、食べたくないと意思表示をしたお年寄りにとってはストレスの掛からない対応だったと思います。
Bさんが不真面目だと決めつけるわけではありませんが、業務に忠実なあまり肝心のお年寄りにストレスを与えてしまっては本末転倒です。
時には不真面目と思われる対応でも、それが相手の立場にたった時に良い事であれば迷わず実行出来るのが、サービス業としては正解なのではないかと思う出来事でした。