介護と外食

家族が要介護になってしまうと、要介護のご本人は勿論周りの家族も外に食べに出かける機会が減ると思います。それどころか外食を諦める方も多いのではないでしょうか。

でも決して諦める必要はありませんし、むしろ積極的に外食に出て欲しいと思います。

実はレストランには介護食として適したメニューが沢山ありますし、何より家族もご本人にもそうした楽しみは必要だと思います。

その事に関連して、私が街場のレストランで働いていた時の体験をお話しします。

今から約30年前。私がまだ20代の後半の頃で、当時フレンチのコース料理のお店で働いていました。

そのお店にほぼ毎週日曜日に予約を入れて下さる老夫婦がありました。

予約はだいたいお昼の2時頃に入ることが多く、その時間帯だとランチの混雑も終わっていてサービスする方も余裕を持ってサービス出来ます。

実はこのご夫婦、奥様の方が恐らく脳の血管系の病気で半身麻痺の状態でした。

移動は車椅子で歩くことは困難な方でした。年齢は恐らく70代半ばくらい。

ですので、お店に来られる時もまずご主人が我々スタッフを呼びに来られまして、我々が段差のある入口を車椅子ごと運び上げてご来店いただくといった事をしていました。

そうした事もあり、混雑するランチタイムをわざと外して来店されていたんです。

それで注文されるメニューもだいたい決まっていまして、必ずメイン料理はサーロインのステーキでした。そして必ずビールも飲まれます。

オードブルから始まってスープやパンなど、全てご主人が食事の介助をされていました。

ステーキもカットせずにそのままテーブルに運びまして、それをご主人が奥様に食べやすい大きさに切って食べさせていました。

もちろんビールも奥様が飲むために注文されていたんです。ご主人は運転がありますからね。

そんな状態ですから、お食事が始まってからお二人がデザートまで食べ終わるのにいつも1時間以上かかりました。

食べ終えるとしばらくゆっくりされるのですが、だいたい3時間くらいはお店に滞在されて再度我々が車椅子ごとお運びしてお帰りいただくのがパターンでした。

こういったケースは移動そのものが困難なだけに、中々外食しようと思わないケースだと思うのですが、ご主人の献身やレストランスタッフの協力もあり外食が可能だったと言えます。

ほぼ毎週来られていたので、恐らく奥様の生きがいの様になっていたのではないでしょうか。

残念ながら私はこの現場には半年ほどしかいませんでしたのでその後どうなったのかは知らないのですが、少なくとも私がいる半年の間はほとんど毎週来られていました。

このケースは半身麻痺の方には食べにくいはずのステーキをご主人が食べさせていましたが、洋食のレストランならグラタン系の料理やシチューなど要介護の方でも食べやすいメニューはいくらでもありますし、和食や中華でも柔らかくて喉越しの良いお料理は探せば必ず見つかります。

介護する方もされる方も、たまには外で非日常の食事を楽しむ事を諦めないでいただきたいと思います。

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