和食と詫び寂び

少し前に和食は引き算の料理と言われる話しを書きましたが、今回はそれに関連して日本独特の美意識である「詫び寂び(わびさび)」について少しだけ。

実は私がこの「詫び寂び」という言葉のちゃんとした意味を知ったのはほんの数年前でして、それまでは「わびさび」で一つの単語だと思っていましたし意味合いもはっきりとは知りませんでした。

例えば枯山水の庭園などを思い浮かべて、それが「詫び寂び」なのだろうと感じる程度の知識しかありませんでした。

それがYouTubeの動画で「詫び寂び」について解説している動画をたまたま見てしまい、その時にこの言葉は「詫び」と「寂び」に別れていることを初めて知りました。

念のため簡単に意味合いを説明しますと、「詫び」は余分な物をそぎ落とした先にある美しさの事であり、「寂び」は古い物を劣化と捉えずそこに美しさを見いだす美意識の事です。

つまり枯山水の庭園は「詫び」であり、骨董品などは「寂び」になります。

この意味合いを知った時に頭に浮かんだのが「和食は引き算の料理」という言葉でした。

和食の技法である「湯引き」や「しゃぶしゃぶ」などの料理法は日本独特なものです。

私は洋食のコックをしていましたが、フレンチにもイタリアンにも、伝統的なレシピにはこうした調理方法は存在しません。

近年の和食ブームの影響を受けたシェフがそうした技法をする事はあるでしょうが、肉を薄切りにする発想も含めて「足し算の料理」である洋食にはそもそも「雑味を取る」といった考え方がないのだと思います。

和食の厨房では、魚や肉を煮付けたりする前にサッとお湯に通して洗う事をよくやりますし、そうして作った料理は確かに「雑味」が取れてスッキリとした味わいに仕上がります。

日本人の味覚にはそのスッキリ感が上品で上等に感じられるのですが、味としてはよりシンプルになるので、これが「詫び」に通じる事になります。

一方洋食の場合は、同じ肉を煮るにしてもそこにどんどん色々な味を足していって渾然一体となった複雑な味わいを良しとします。足し算料理と言われる所以です。

これはどちらが良い悪いの話しではありませんし、どちらも素晴らしい文化だと思います。

日本の美意識である「詫び寂び」は「禅」と一緒に欧米に紹介されましたが、世界文化遺産となった和食の中にもしっかりと息づいている美意識だと思います。

日本人のユニークさはこんな所にもあるのだなと思った次第です。

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