人間は加齢と共に、舌で感じる味の感度も鈍くなることをご存知でしょうか。
特に塩味については20代の若者と75歳以上の老人とでは4倍以上の感度の差があるとされています。
つまり若い人なら1gの塩で塩味を感じるのが75歳以上の高齢者は同じ塩味を感じるのに塩が4g以上必要という理屈になります。
ただ、ひとくくりに75歳以上といっても、高齢者の場合は個人差がとても大きいですので、あくまでも参考程度の話しです。
実際に高齢者の施設で調理の仕事をしていても、味が薄いからもっと濃くしてくれと言ったクレームはあまり聞きません。
つまり多くの高齢者は、それなりに味覚はしっかりと保持されていると私は思っています。
ただ時々理解に苦しむクレームに遭遇することも事実で、そんな時には内心で味覚の異常を疑ったりもします。
先日、80代のお年寄り(男性)と話していましたらこんな事を言われました。
「今日の食パンは美味しかった。先日の食パンは甘くてダメだった。甘いのはジャムを付けたりして自分で出来るから、甘くない食パンを使ってくれ。」
という事なのですが、どこの施設でも食パンはそれなりに大きな会社のパン工場から仕入れますから、日によって食パンの甘さに違いが出るとは考えられません。
恐らくこのお年寄りの体調が、日によってパンの味を違うモノに感じさせているのだと思います。
事実、同じ施設の他の人からはそういったクレームは一切ありませんので、このお年寄り固有の現象だと思います。
また、別の施設ではこんな事もありました。
そのお年寄りも80代の男性だったのですが、ご飯の味が変だとクレームを言われました。
この時は直接言われたのではなく、介護士の方からの伝聞でそう聞きました。
私はすぐにジャーに残っていた同じご飯を食べてみましたが、全く問題なく美味しいご飯でした。
クレームは朝食の時に言われたのですが、ご飯はその日の朝に炊いたもので、全く問題のない味でしたので、介護士の方にその様に説明して貰いました。
ところがこのお年寄りはそれでは納得してくれなくて、調理師を呼べとなり、私がその方のテーブルまで出向いて説明しました。
それでもやはり納得して下さらないので、具体的にどういった味を感じますかとお聞きしたのですが、それは分からないけど何か変な味がすると繰り返しおっしゃって、結局翌日からその方の朝食はパンに変更になりました。
この時も、ご飯の味に対してクレームがあったのはこの方一人だけでしたので、恐らく体調の問題だったのだと思います。
ところで、お年寄りが味覚異常になる時の原因にはどんなものがあるかご存知でしょうか?
まずダントツの一番は、服用薬による薬剤性の味覚障害で全体の35%程度を占めます。つまり薬の副作用でそうなるという事です。
次に来るのが全身性疾患で全体の22%、その次が亜鉛の欠乏症で全体の17%で、この三つで味覚異常の74%程度が起こっている事になります。
在宅で介護している場合、処方される薬が変わったタイミングで食の嗜好も変わる様なことがありましたら、薬剤性の味覚障害を疑ってみてもいいかもしれません。