先日、仲良くしている介護士さんからこんな話しを聞きました。
そのお年寄りは認知症が進んでいて、通常の会話は成り立たないレベル。
移動は車椅子でほぼ寝たきりの状態でした。
寝たきりですので介護士さんがオムツ交換や体位変換するために頻繁に居室に出入りするのですが、とても気性の激しい方で介護士さんが体に触ると嫌がって噛みついたり爪でひっかいたりする困ったお年寄りだったそうです。
ただ、沢山いる介護士さんの中で二人だけ体を触っても怒らない介護士さんがいて、その介護士さんが勤務しているときは、必ずその二人がコンビでその方のお世話をしていたそうです。
ある時、いつもの様に二人でその方のお世話をしていたら、いつもは黙ってされるに任せているのに、突然一人の介護士さんの腕を掴んで自分の口の方へグッと引き寄せたそうです。
これは他の介護士さんがいつもやられているパターンで、このまま噛みつかれるか無理に振り払おうとすると爪で引っ掻かれる時の行動でした。
その時、担当の介護士さんは驚いたものの手を振り払おうとはせずにそのままにしたそうなのですが、何と噛みつくのではなく、その介護士さんの腕にキスをしたそうです。
それも何度もチュッチュッとキスをしたのだそうです。
よほどその介護士さんがお気に入りだったのでしょうね。認知症が進んでいて中々コミュニケーションも取れない中で、素敵な愛情表現をそのお年寄りがしてくれたという話しです。
この話しを聞いて改めて感じた事は、普段コミュニケーションが取れないからと言って、何も分かっていないわけではないという事です。
その方なりにしっかりと感じる事が出来ていないと、そもそも好きな介護士さんを見分けることも出来ないわけですから。
自分の思いを表現する為の機能の多くが失われているせいでフラストレーションをため込んでいる中で、ぞんざいな扱いをされたと感じたら結果的に噛みついたり引っ掻いたりされるという事ではないでしょうか。
噛みつかれる介護士さんの心の中に、どうせ分かっていないからといった気持ちがあったとして、それをこのお年寄りは敏感に感じ取っていたのだと思います。
こうしたお年寄りの存在が、介護現場のレベルを上げていってくれているのではと感じたお話しでした。