機能を維持する為の愛のムチ

ご家庭で介護食を作るときに、どうしても柔らかく食べやすくしなければと思いがちです。

勿論その気持ちは大切なのですが、人間の身体機能は使わなければどんどん衰えてしまいます。これは食べる能力も同じ事で、毎日毎回柔らかく噛まなくても良い食事を続けていると、気がついたら唾液を分泌する機能が衰えていたなんてことになってしまいます。

例えば私が施設で働いていて何度も経験した事をちょっとご紹介します。

それは体調を崩して入院した方が退院して戻ってこられた時に、入院前は普通食を食べることが出来ていたのに、退院後は刻み食やミキサー食になっている事がとても多かった事です。これはあくまで想像ですが、基本的に病院では食事に介助が付くことはないですし投薬や問診などスケジュールが決まっているため看護師さんの下膳時間までに食事が終わっていないと業務が滞るのではないでしょうか。そうすると食べるのが遅いお年寄りにはどうしても最初から食べやすい形態の食事を提供し続けて、結果退院する頃には普通食が無理になってしまうという事ではないかと思います。

ご家庭で食事を作る場合一人分だけ別のモノを作るのは面倒ですし、ご本人の身体機能維持の為にも時にはちょっと食べにくそうなものでもトライさせてみましょう。

施設のお年寄りでも、退院してきた時は刻み食でお粥だったのがしばらくして刻みで軟飯になり、最後は普通のご飯に戻って刻みもなくなったなんていう事もありました。

ただ、誤嚥をしやすい方の場合は口の中で食材が散らばらない工夫をしてあげる事は必要です。時にはとろみ剤などの助けを借りてむせずに食べてもらえるようにしましょう。

特にお味噌汁などの汁物は、汁の具材を噛んでいる間にサラサラの汁が不意に喉の奥に流れ込んでしまって誤嚥を起こす事が多いので注意が必要です。

ところでこうした時にとても役に立つのが「大好物」の存在です。

別のコラムでもご紹介したことがありますが、私の父などは普段はお粥しか食べないくせに大好物のウナギを買ってきた時だけは普通のご飯で作ったウナギ丼をパクパク食べていました。

ある施設の入居者の方の例だと、普段は刻み食で固い物は不可の方が、好物のサンドイッチが出るときだけは他の方と同じ大きさのまま提供してほしいと言われた事もありました。

大切な事は、本人に食べたいという気持ちを持ってもらう事です。その気持ちさえしっかりしていれば食べる事に関する様々な機能も保たれるのではないかと思います。

そのためには勿論、ご家族やお世話をする方の愛情が欠かせないのは言うまでもありません。