ご存知かと思いますが、プロの料理人にも種類があります。
ひとつは街場のレストランなどで腕をふるう職業調理人で、調理師の資格を持っている人が多いですが、持っていなくても「プロ」として働くことに問題はありません。
もう一つは料理研究家と呼ばれる様な人達で、作る事よりもどちらかと言うと教えることの方に重きを置いて活動されている方達です。
私の場合スタートはレストランで働く現場の調理師でしたが、現在は介護食の専門家として教えることに重きを置く活動にシフトしています。
ところで以前現場で働いていた頃は全く考えた事がなかったのですが、人に教えるようになって考え始めたことが、「プロの料理と家庭料理の違いとはなんだ」という事でした。
例えば私のように現場でプロとして働いた経験のある人間が教える立場になった時に、どうしても過去に自分が会得したプロっぽい技術を教えたくなります。
具体的には、和食の職人さんでしたら魚の裁き方や寿司の握り方かもしれませんし洋食のコックさんでしたらオムレツの巻き方やステーキの焼き方かもしれません。
つまり、それなりに難しく相当練習しないと習得できないような技術を教えたくなります。
平たく言うとマウントが取りたくなるわけです。
皆さんの目の前でフライパンを上手に使ってきれいにオムレツが巻けたらかっこいいですからね。
しかし実際に教える段になると、わずか数時間の講座の中でいくら丁寧に教えたところで急にオムレツが巻けるようにならないですから、教える内容を「オムレツ」から「炒り卵」に変更するといった事になります。
そこでハタと考えるわけです。プロの技術を教えることに意味はあるのだろうかと。
出した結論は、「技術的な事についてはほとんど意味がない」でした。
つまりプロの料理と家庭料理は全く「別物」と考えるべきで、プロが現場で培ってきた技術やノウハウを家庭に持ち帰ってもあまり役に立たないという結論になりました。
先ほどのオムレツの巻き方にしてもそうですし、にぎり寿司の握り方にしてもそうです。
魚の裁き方にしてもよほど好きな方でない限りは調理済みを買って帰ると思いますので、今のご家庭ではあまり必要のない技術です。
その点、料理研究家の方が教える際には家庭料理の立場に立った教え方をされていて個人的にはすごく勉強になったりします。
そんなわけで、一般の方が料理の腕前を上げたいと考えた時には、プロが教える教室に通うよりも料理上手と評判の主婦の方に知りたい内容を質問して教えていただくのが最も役に立つと思います。
技術的にはそれで充分で、レシピに関してはネットで検索すればいくらでも出てきますから、その中で自分の技量に見合ったものを作れば良いのではないでしょうか。
料理教室に来ていただく立場の人間がこんな身も蓋もないことを言うのはどうかとも思いますが、現場で教えてみて実感したので書いてみました。