老人向け介護施設はどのタイプの施設であっても、そこは集団生活の場となります。
決まった時間に起こされて決まった時間に食事が提供されます。
一日のおおよそのタイムスケジュールが決まっていて、要介護の方であれば入浴や服薬の管理まですべて施設のスタッフが行います。
ただ、集団生活であっても相手が高齢者ですし多くは要介護の方ですから、それぞれの方に対してそれぞれの個別対応がついて回ります。
私の仕事である食事に関しても、Aさんは刻み食、Bさんは減塩食で提供など様々な個別対応でのオーダーが入ります。
厨房のスタッフはそうした細かいオーダーを細大漏らさずやっていくわけですが、実際の所、提供する食事が全て個別対応だったとしたら対応する事は難しいと思います。
つまり施設での大量調理業務と個別対応業務は調理の現場としては技術的にも設備や什器の準備的にも相反するオーダーという事になります。
施設の側は多くの人に入居して貰わないと売上が上がらず施設を運営していくことが出来ません。当然そうした施設の厨房は大量調理に適した厨房になっています。
ところが実際に入居者さんが増えて大量調理が始まると、食数が増えると同時に個別対応も比例して増えていきます。
そこのジレンマを抱えながら毎日必死に業務をこなしているのが施設の厨房スタッフという事になります。
例えばこんな事があります。
その日のお昼ご飯はカレーライスだったとしましょう。カレーライスは大量調理にも向きますし、お年寄りにも人気のメニューですから実際によく提供されるメニューです。
しかし中に一人だけ辛いものが食べられない方がいたとします。
そうすると当然カレーは提供出来ませんので、何か代わりのモノを提供する必要が出てくるのですが、ではハヤシライスにしましょうとなった時に、50人分のカレーを大鍋で煮込みながら傍らで一人分のハヤシライスを煮炊き出来る小さな鍋を用意する必要に迫られます。
そういった個別対応が一人で済めば良いですが、ある人は辛いものがダメである人は牛肉がダメである人は人参がダメ。さあどうするかという戦いが日夜厨房では繰り広げられています。
勿論厨房で働くスタッフは全てオーダー通りに作って提供するのですが、片方で数十人分の調理をこなしながら片方で1人分の個別対応を何パターンもこなしていく作業は簡単ではありません。
何だか愚痴のような記事になってしまいましたが、今回はちょっとした施設厨房の裏話をさせていただきました。