日常と非日常のはざま

当たり前かもしれませんが、老人向けの介護施設で提供される食事は基本的に「日常食」です。

お年寄りはそこで暮らしているわけですから、施設で食べる食事は家庭で食べる食事と同じ位置づけになります。

日常食だとすれば、どこの家庭でもしている様な事、例えば昼の残り物を夜にも食べるといった事を施設でもして良いのかと言えば、それは勿論NGです。

そういう事はダメですが、食事の内容については毎日豪華にする必要はなく、そこは日常食レベルで問題ない事になっています。

実はそこがとても難しい部分で、施設を運営する側としては入居者を募集するうえで食事も大切なアピールポイントになりますので、厨房の委託業者に対して「非日常的な日常食」を求めるといった訳の分からない事になってきます。

それで多くの栄養士や調理師は頭を悩ますのですが、以前私が関わっていた施設でこんな事がありました。

そこの施設長さんが交代になったタイミングで新しい施設長さんから「朝食をもっと豪華でバラエティーあるものにしてほしい」と要望がありました。

それを聞いた栄養士は、無い知恵を絞って色々と新しい献立を朝食に組み込みました。

しかしこれが実際に食べるお年寄りにはどうも評判がよろしくない。

私も新しく追加された献立を実際に調理師として作りながら、「朝からこれは食べたくないよな」と思いながら作っていました。

この時に追加された献立は「朝食」という事を無視して、普通ならお昼や夜に提供する様な内容の献立を追加していたからです。

こういう場合は、やはり「朝食」である事を大前提に考えないと、せっかく苦労して豪華なモノを提供しても逆効果になってしまいます。

それで私から栄養士にバラエティー豊にする必要があるのだったら、「世界の朝食シリーズ」を週に一回入れるのはどう?と提案しました。

何処の国であっても「朝食」として食べられているものなら、そんなに胃に保たれる様なものではないだろうし、食べる方にとっては、今度はどこの国の朝食かしらと楽しみにしていただけるのではないかと思ったのですが、それを実際にやろうとすると、今度は食材の調達が難しい事が分かりました。

これが街中のレストランなら問題無く出来るのですが、給食施設というのは仕入れについてそれなりの制約もあり、「一回だけ少しだけ」といった融通がききにくい仕組みになっています。

それでも色々努力すれば出来る話だとは思うのですが、結局そこの施設では私の提案は没になってしまいました。

調理に関わるモノとして、日常でありながら非日常を演出する難しさを感じた出来事でした。

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