最近は普通のスーパーに行っても当たり前の様に介護用のトロミ調整剤を売っています。
介護施設や病院は勿論のこと、家庭でもそれだけ需要があるという事なのだと思います。
ご存じない方の為に説明しますと、トロミ調整剤(トロミ調整用食品)とは冷たい液体であっても簡単に、食べ物の味を変えることなくトロミを付けることが出来る食品添加物の事です。
最近は液状のものも販売されていますが、多くは顆粒状の粉になっていてお茶や味噌汁などに直接入れて使います。
具体的には、加齢やケガで喉の筋肉が衰えたり障碍がある場合に誤嚥を防止する目的で使われます。
例えば、お年寄りが食後に薬を飲む場合、若い人なら水でそのまま薬が飲めるのですが、嚥下障害のある方はそのままの水を飲むと気管に入ってむせてしまう事があります。それを防ぐためにトロミ調整剤を溶かした水で薬を飲んだりします。
ところで、私が講師を務める介護食の講座では、最初の授業の冒頭に必ずトロミ調整剤を溶かしたお茶を飲んでいただきます。
最初は少しだけ口に含んでもらい、元々のお茶と味が変わっていないか確かめてもらいます。そこで私が味について質問するとほとんどの生徒さんは、味については変わらないと答えます。
その後で今度はごくごくと飲んでもらいます。
そしてもう一度生徒さんに「美味しいですか?」と質問します。
するとほぼ全員が美味しくないと答えます。
味は変わらないのに美味しくない。一体これはどういう事でしょうか?
つまり人が食品を口にするときには、味だけではなく「食感」もとても大切な要素だという事です。
トロミ調整剤には独特のベタッとした食感があり、それが美味しさを損なっていたわけです。
私が介護施設の厨房で働いていたときに実際にあった話しをご紹介します。
女性の利用者の方で歯が悪く嚥下にも多少問題があるとの事で刻みトロミ食のオーダーでした。
厨房では当然オーダー通りお料理を刻み、その上からトロミ調整剤でトロミを付けた出汁をかけて提供します。献立が汁物なら直接トロミ調整剤でトロミ付け出来ますが焼き魚など汁物以外のおかずにはトロミがついた出汁をかけて提供するわけです。
それで1週間ほど経過したときでした。
その女性から栄養士が呼び出されてこんな事を言われました。
「頼むからトロミだけはやめて下さい。まるで拷問を受けているようだ」と…。
真面目な日本人は、誤嚥させて肺炎でも起こされたら大変だと少しでもむせ込む事がある様だとすぐにトロミ調整剤を使いたがります。
しかし実際にトロミ液だらけの食事を一日三度も食べさせられる方は相当ストレスを感じている場合があるんだなと、この出来事は教えてくれました。
施設の場合は家庭の様に融通が利かない部分がありますので、同じ人に対して今日はトロミ食で明日は普通食という訳にはいきません。
しかしご家庭での介護なら、臨機応変に対応出来ると思います。
こうした事にも配慮して日々の介護に活かしていただければと思います。