あるお金持ちの話し

私が以前関わっていた、サービス付き高齢者住宅での話しです。

この施設は富裕層向けの高級施設で、ガチガチに生活を管理する事もなく入居者さんは比較的自由に暮らせる環境でした。

その施設にあるとき、とびっきりのお金持ちのFさんが入居して来られました。

Fさんはまだ70代の女性で、背筋もしゃんとしていましたし、何よりオシャレで美人でした。

いわゆる華のある人で、Fさんが部屋に入ってきただけで空気が華やぐ感じがするような独特の雰囲気のある女性でした。

そんな方ですから、入居してすぐに先輩の入居者さん達とも仲良くなって、レストランフロアで食事をする時も、いつも誰かに囲まれて食事をされていました。

私はそんな光景をいつも目にしていたので、このFさんがある事情を抱えて入居してきたことなど全く想像もしませんでした。

ところでサービス付き高齢者住宅というのは形式的には賃貸住宅になります。

部屋が空いていれば気軽に入って、気に入らなければ出ていくことも可能です。買い取り型の有料老人ホームではありません。

この施設は富裕層向けという事もあり、居住スペースもゆったりしていましたので、週末などは家族さんがよく遊びに来る施設でした。

Fさんのご家族も時々来ていたようなのですが、家族が来た後には決まって落ち込んでいる風なのが気になっていました。

そんなあるとき、懇意にしている介護士さんとFさんの話になり、Fさんの家族について質問してみました。

そしたらとても意外な答えが返ってきたんです。

このFさんは大変な資産家の奥様だったそうなのですが、最近長年連れ添ったご主人を亡くされたそうです。お子さんは3人いらっしゃるとの事でした。

そうすると当然、相続の話しが出るわけですが、お金持ちだけにその話しがこじれたのでしょうね。

Fさんと子供達との間でかなり見苦しいレベルのやりとりがあったようで、とうとうFさんは一時うつ病になり、それが回復したら今度はガンを患ってしまったそうなんです。

それでもう何もかもに嫌気がさして、かなりの金額を子供達に渡したあげくに自分だけその施設に入ってきたといういきさつでした。

傍目には素敵な老人であり、オシャレで美人で聡明な貴婦人といった感じのFさんでしたが、人生の最晩年にお金の事で手塩に掛けて育てた子供達ともめてしまった事をとても気に病んでいる様でした。

これがFさんが家族の訪問を受けた後に落ち込んでいる原因だったわけですが、お金があるから幸せなわけでは無いと、あらためて教えてくれるエピソードでした。

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