とろみの話し

介護関連の仕事をしている方なら誰でもご存知なのがトロミ調整剤です。

嚥下機能の衰えたお年寄りに、誤嚥を防いで安全に食べていただく為に出来た食品なのですが、介護施設ではこれを大量に消費します。

あまりにも日常的に普通に使うので誰もこのトロミ調整剤について疑問を持つことはありませんが、実は問題も抱えています。

私が講師をさせていただく介護食関連の講座では、座学のみの場合でも必ずトロミ調整剤でトロミ付けしたお茶を全員に飲んでいただきます。

その時にはトロミの付かない普通のお茶も一緒に用意して各自に配ります。

それで皆さんにトロミ調整剤入りのお茶を飲んでいただき美味しいかどうか感想を聞くのですが、ほぼ全員が美味しくないと答えられますし、トロミの付かない方のお茶を皆さん口直しにゴクリと飲むのがいつも私が目にする光景です。

トロミ調整剤入りの液体には独特のベタッとした食感があり、どうしても口の中をサッパリさせたくなるので、普通のお茶に自然と手が伸びるというわけです。

ところが、介護されるお年寄りの中には、お茶も水も全てトロミ付けしたモノしか提供されない事も多く、食後に口の中をサッパリさせたくても出来ない事があります。

こうした状況が続くと、徐々に食事をする事がストレスとなり、食欲が落ち体力も維持出来ないといった悪循環が起こってしまいます。

介護施設の場合は基本的に、食事の形態で「トロミ」と指定があれば全ての料理にトロミを付ける事になります。

汁物ならば直接トロミ調整剤を入れてトロミ付け出来ますが、焼き物や揚げ物などはそうした事が出来ませんので、出汁にトロミ調整剤を溶いたトロミ液をあらかじめ準備しておき、それを上から掛けるといった事をやります。

このトロミ液は、汁物とご飯以外の全てのおかずに掛けることになりますので、見た目には全部の料理が餡かけみたいになります。

これの何が問題かといいますと、上から掛けるトロミ液でお腹がいっぱいになってしまい、肝心の食事が全部食べきれないと言ったことが起こってきます。

つまり栄養がしっかり摂れない事になるわけですが、本末転倒とはこの事ではないでしょうか。

誤嚥を防いで元気で長生きしていただこうという意図でトロミ調整剤を使うのですが、結果的には食べる量を減らしてしまい逆効果となるわけです。

この辺りの問題は、施設では解決するのが中々難しいのですが在宅で介護されている場合でしたら、ちょっと頭の隅にでも覚えておくと何でもかんでもトロミ調整剤を使って食べさせるといった事を防ぐ事が出来ます。

身も蓋もない話しになりますが、誤嚥を防ぐ目的は誤嚥性肺炎を防ぐという意味合いがあります。

この誤嚥性肺炎はそのまま死に直結する病態ですので防ぎたくなるのは分かるのですが、誤嚥性肺炎を起こすと言う事は、とりもなおさず寿命が来たという事でもあります。

私が介護される側でしたら、肺炎になってもいいから普通の食事を食べさせて欲しいと思うのですが、いかがでしょうか。

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