老人向けの施設にも色々なタイプがありますが、通所型やショートステイタイプを除いてどのタイプの施設でも、入ってしまえばそこがその人の家になります。
これは入居されるご本人にとっては大きな環境変化ですし、決心のいる事だと思います。
先日、サービス付き高齢者住宅で働く仲の良い介護士さんからこんな話しを聞きました。
男性のお年寄りが新しく入居されたそうなのですが、家族の方が連れてこられたそうです。
付き添いのご家族は手続きが終わるとすぐに帰ってしまったらしいのですが、残された入居者さんのご機嫌が最悪で取り付く島もない状態とのこと。
この方、認知症の症状はなく頭はしっかりしていたとの事で、介護士さん達はとにかく頑張ってご機嫌を直して頂こうとしたらしいのですが、まるでダメ。
食事にも中々手を付けてもらえないので困り果てていたそうです。
しかし人間いつまでも飲まず食わずでもいられませんし、食事の時に介助に入った介護士さんが粘り強くコミュニケーションを取る努力を続ける内にようやくご機嫌が直ってきました。そこでどうしてそんなに機嫌が悪かったのか聞いたそうです。
すると、その男性は身内の方に施設に入ることを聞かされておらず、半ば騙されて連れてこられたとのこと。
そんな家族に対する感情の持って行き場がなく不機嫌になってしまったとの事でした。
この方と家族との関係がどんな関係だったのかは知る由もありませんが、施設に入れることを本人に告げずに連れてくるという事は、少なくともコミュニケーション良好とは言えません。
入居されたご本人も、移動が車椅子だったり食事に介助が必要だったりと、ご自身が誰かの世話にならなければ生きていけないことはしっかり自覚されていたと思います。
私にこの話しをしてくれた介護士さんも、騙して連れてこられたら不機嫌になっても仕方ないよねと同情していましたが、私がこのお年寄りの立場だったら不機嫌程度ではすまなかったと思います。恐らくショックで食事も喉を通らず寝込んでしまうかもしれません。
家族に邪魔に思われていたから連れてこられたと思うでしょうし、自分の存在そのものを否定された気持ちになったのではないでしょうか。
自分は要介護のお荷物だから生きていても仕方が無いと思い詰めるかもしれません。
そしてこのお年寄りにとって、その施設は恐らく終の棲家となるわけです。
つまり自分の死に場所と定めて暮らすわけですから、ご家族の方にはもう少し配慮があっても良かったのではないかと言いたくなる話しでした。
私もアラ還の年代で独り暮らしですから、そんなに遠くない将来にどこかの施設で暮らす事になる確率が高いのですが、その時には離れて暮らす子供達としっかりコミュニケーションを取った上で、自分で選んだ施設にお世話になれればと思った次第です。