今では料理にトロミを付ける事が誤嚥の防止に役立つ事は広く知られる常識の様になっていますが、そうした事を日本の食品メーカーが放っておくわけもなく、市場では様々なトロミ調整食品が出回っています。
全ての商品が、冷たい液体であってもトロミを付けることが出来る様になっていて、薬を飲む水にもトロミを付けることが簡単にできます。
トロミを付けた水で薬を飲めばむせて咳き込む事も少なくなるので、老人を預かる施設などでは積極的にこうしたトロミ調整剤を使います。
ご家庭で介護される場合も、今では普通にスーパーでトロミ調整剤が手に入りますので積極的に使われる方も多いのではないでしょうか。
私は介護食士としてご自宅で介護される方に食事面の事で色々相談を受けたり、ボランティア団体様に講義をさせていただく様なこともあるのですが、「トロミ調整剤はなるべく使わないように工夫しましょう」と必ずお伝えします。
まえに別の記事でも書いたことですが、昔私が介護施設で調理師をしていた時に、「刻みトロミ食」のオーダーがありまして、いつも通り刻んだおかずの上からトロミ調整剤で粘度を付けた出汁をたっぷり掛けて提供していました。
もちろん、和風の料理には和風味のトロミ液を掛けるなど味にも配慮して提供していました。ところが提供を始めて1週間ほど経ったときに栄養士が呼び出されてトロミ液はやめて欲しいと言われてしまいました。トロミ液がかかっているだけで何だか不味く感じて食べられないとの事でした。
実は私はこのクレームがあるまで、トロミ液を掛けた料理をしっかり一人前食べてみたことがありませんでした。トロミ調整剤は料理の味を変えないのが売りですし、実際に「味」だけに関して言えば変わりません。しかし「食感」は大きく変わります。
当然ですね。トロミが付くわけですから。
それで自分で実際にトロミ調整剤を使った料理を一人前食べてみたのですが、確かに不味かったです。料理というのは見た目や舌触りなど五感全てを使って味わうもので、「塩味」や「甘味」が変わらないからと言って美味しいとは限らないとその時思い知りました。
それからは調理の工夫で誤嚥を防ぐ方法を一番に考えるようになったのですが、最初に「使わない」前提で考えていくと、結構方法はあるものです。
もちろん施設の調理では難しい面はありますが、ご家庭での調理なら色々試すことも出来ます。
例えば、今まで味噌汁にトロミ調整剤を入れていたのなら、代わりに長芋のトロロを入れても適度にトロミが付きますし味も問題ありません。果物の上からトロミ液を掛けて食べさせていたのなら、代わりにヨーグルトでもいいですし、コンビニなどで売っているゼリー飲料も使えます。
焼き魚にトロミ液を掛けていたなら、代わりに市販のポテトサラダを添えましょう。ほぐした身とポテトサラダを一緒に口に運べばトロミ液は必要ありませんし、この組み合わせは意外と美味しいのでおすすめです。
真面目に介護しようとする人ほど、何にでもトロミ調整剤を入れてしまいがちです。
しかしそれが食事の質を落としている事も知って欲しいと思います。