私は現在「食べごろclub」というユニバーサルレシピを提案するサイトを運営していますが、その活動をするきっかけとなったのは父の介護でした。
遠方の実家で独り暮らしをしていた父が体調を崩し独り暮らしが難しくなった事で、たまたま状況的に実家へ単身で戻る事が可能だった私が介護を引き受けることになりました。
当時、介護するにあたって色々不安はあったのですが、食事づくりについては全く心配していませんでした。
心配どころか、プロの調理師として美味しいものを食べさせてやろうと楽観的に考えていました。
ところが実際に料理を作って食べさせてみると、いきなりご飯が硬くて食べられないと言われてしまいました。
歯が悪い父には、普通の水加減で炊いたご飯は口に合わなかったんです。
普通のご飯を硬いと言うのですから、他のおかずも口に合うモノが当時の私には理解が及ばず、とにかく試行錯誤の日々となりました。
結局ご飯に関しては本人の希望でお粥を炊くことになりましたし、お昼のおかずは柔らかいオムレツを毎日作る事になり、夜だけ日替わりで色々作るといった事に落ち着きました。
私の場合は父と二人の食卓でしたし、私は料理を作る事に関しては全く苦にならないので父の分だけ何か別のものを用意する事も何とか出来ました。
しかしいくら苦にならないと言っても、仕事をしながらの介護でしたし、毎日別のものを用意するとなるとやはり心が重くなります。
そうした経験をしたことで「介護食」というものに興味を持つ様になり、介護生活を終えてから離れていた調理の仕事に復帰して現在の活動をする様になりました。
介護食を学ぶようになって最初に知ったのがユニバーサルレシピという考え方で、この知識があるのと無いのとでは、介護する方の日々のストレスの度合いは随分違うだろうなと思います。
意味合いとしては、子供からお年寄りまで同じものを食べられる様に工夫した料理の事で、私の様に父の分だけ別の料理を作ったりしなくても良いように、最初から一緒に食べられるレシピで調理する考え方です。
具体的には、お年寄りの苦手な部分を排除する事から考えます。つまり「硬い」「パサパサしている」「喉詰めしやすい」の三つを無くす事を考えます。
日本人は欧米人に比べて唾液の分泌量が少ないので、ただでさえ乾いたパサパサ食感が苦手なのですが、歳を取ると更に唾液の分泌量が減るので、ここは注意するポイントになります。その上で柔らかく仕上げて、なおかつ喉越し良く滑らかな食感なら100点満点です。
もちろんこの三つの全部の条件を揃えていなくても構いません。
入れ歯が合っている方なら多少硬い物でも大丈夫でしょうし、少しパサついた食感でも、一緒に汁物を提供すれば問題ありません。
喉詰めの心配については、餅でも芋でも一度に大量に口に入れなければ危険度は下がりますので、これは注意すれば防げます。
こんな風に、ちょっとした知識を持つだけで日々の介護生活が楽になることを知っていただければと思っています。